旅の可能性が広がるホテル
私たちにとって旅ってなんだろう。
旅は自分自身をもっと知るきっかけをくれる。
そんなきっかけは心を豊かにしてくれるのだ。
自身への思いやりがホテルのおもてなしと重なりその土地の魅力へと繋がる。
はじめましてなのに、はじめましてじゃない。
それはずっとここに建っていたような安心感。
Southwest Grand Hotelはそんな魅力がシティにいながら感じられるホテル&レストラン。
一つ上の寛ぎに心を委ねて。
ローカルに溶け込みながら少しだけ非日常を体験する。
旅上手なゲストを迎えてそれぞれの「旅」についてお話を聞いていくシリーズ。
第二回目のVoiceはBACARオーナー兼ピッツァ職人のDaisuke Nakamuraさん。
「こんなかっこいい大人になりたい。」
そう心にガツンときた。
そんな大人にSouthwest Grand Hotelで出会った。
ガチマヤー(食いしん坊)から美食家までが足繁く通う那覇にある「BACAR」はご存知だろうか。
昨年発表された「世界のベストピザ100人」リストに見事選ばれたオーナー兼ピッツァ職人の仲村大輔さん。沖縄で知らない人はいないのではないかと思うほど連日満席のピッツェリアだ。
「小さくても濃い店がやりたくてね。カジュアルだけど本物志向で芯の通った店。」
そういうと物腰柔らかに話してくれた。
那覇出身の仲村さん。
東京で日本におけるナポリピッツァの第一人者と言われている柿沼氏(聖林館)に長いこと師事し、
その後沖縄へ戻り、昨年2023年にBACARは15周年を迎えた。
「BACARをやりながら北谷でアルドールというレストランを開いて3年程し、やっと軌道に乗ったなと自分で思えた矢先にコロナがきたんですよね。自分が現場に戻れば会社を救えると思って、その頃使っていたケータリングバスとかレストランにあるものは全て売り払いましたね。」
腹を括って店舗を閉めるという決断をするのは、あらるエネルギーを使う。
その経験は糧となり、いうならば断捨離になったという。
「考え方が本当にシンプルになったね。結果としてよかった。」
辛かった当時を振り返りながら、優しく微笑んだ。
「人生に失敗なんてないよ。」
人間は失敗により自分のポテンシャルを自ら定めてしまう人と、失敗と捉えず成長の糧と考える人がいる。
言い切ることで変換できるのだ。
「もう物と場所に固執しない!って決めたの。人の縁って切れないからみんな来てくれるし。今まではどうやったら仕事が上手くいくんだろうって考えたり、バランスの難しさの葛藤もあったけど。自分がヒーヒ言ってたらこの仕事誰もしたくなくなっちゃう。」
まずは自らの健康を大事に、社員のワークライフバランスを大切に。
目線を内側に向けるようになったという。
「日本ってお客様が神様っていう考え方が強いでしょう。ヨーロッパとか行くとより感じるかな。でもそれなりの仕事をして、それなりにもらうから等価交換だと思ってる。三方よしだと思ってるからwin-winってないんだよね。」
スッキリとした穏やかな目で頷いた。
BACAR 15周年のコンセプトは「たゆたえども沈まず」だ。
16世紀から伝わるパリ市の紋章にある標語。この言葉をパリで何度も目にした仲村さん。
「どんに揺れても煽られようとも絶対に沈まない。お店って積み重ねしかないんだよね。前向いて沈みさえしなければいい。」
「僕らがノスタルジーに浸ってやってる暇なんてないのよ。毎日がライブ、毎日が違う夜になる。チューニングが変わってくるからね。僕らは前に進むだけ。」
Southwest Grand Hotelは全室、ナチュラルなウッド調に藍色のインテリアが映える。
こだわりの間接照明に、クリーンな印象を与えるバランスが絶妙だ。
そして室内だけでなく、館内そこかしこに点在するアートは空間のアクセントとなり、程よく落ち着かせてくれる。
自ら筆をとり、昨年友人のギャラリーで個展を開いた仲村さん。
小さな頃から絵を描くのが大好きな少年だったという。
「小学生の頃は漫画家になりたかったんですよ。」と照れるように笑った。
「休みの日もずっと絵を描いてましたね。しかも自分の描いた絵をランドセルの横にいつも持ち歩くちょっと変わった子でした。お守りみたいに持っておきたかったんだろうね。」
東京での活躍後、沖縄に帰ってきて3年目にバイク事故に遭い、人生初の骨折を経験。
骨折中に片手で版画や絵を描き始め、起点を利かせて骨折ライフを楽しもうと「骨折展」を開催。葉巻とワインを嗜みながらライブペイントを行い、イントは大盛況。
言葉にできない、文字にできないことを「絵」という形で表現する。
アウトプットの一つとしてその心地よさが仲村さんの中で再燃した。
「実はね、旅に出る前に必ずスケッチブックで事前に旅するの。」
そういうとおもむろにノートブックを出してきてくれた。
旅の工程を事細かくプランし、移動の手段やタイムラインなど全てノートに書き出すという。
「食べたいものを食べに行きたいから、迷う時間がもったいないのよ。イタリアに行く時は全部レストランも事前に日本にいる時に予約してから行くね。やっぱり食に対する執着心は強いよね。」そういうとワハと笑いながら目を細めた。
「いつも旅をすると思うのは、自分はただ通りすがりの人なんだよね。だから自分が足をつけるところはしっかりしようって思う。仕事ちゃんとしようって思う。ご褒美だからね。」
ちゃんと地に足がつくように。
だから旅は欠かせない。
沖縄のおもてなしとして、この土地の美味しいものをまずは提供したい。
それは自分自身が食で感動したいから。
そして、また自分も感動を提供したいというのが根幹にあるという。
県産マグロを使ったボッタルガ(カラスミ)の生産工場建設を現在計画中の仲村さん。
実は沖縄県は日本有数のマグロの漁獲量を誇る。
季節ごとに旬のマグロの種類が楽しめるそうだ。
「沖縄の水産資源をもっと広めたくて。マグロの卵巣を使ってボッタルガを作ったり、普段あまり使われない血合いの部分を使ったツナを、シチリアのトラーパニで食べて美味しかったから沖縄でもできないかと思って。そういう付加価値をつけてもっと盛り上げていきたい。」
Southwest Grand Hotelの一階奥ではSHIKAKUという和食ダイニングが楽しめる。
旬の野菜や、炭火で焼いて香ばしくいただける魚介やお肉などを、気軽に居酒屋スタイルで堪能することができるのだ。
SHIKAKUはちょうどホテルの裏に面しているため、国際通りにいるとは思えないほど静かで気を許せる仲間と”ゆんたく”できる時間が心地よい。
「今年はスペインとポルトガルにまた行きたいと思ってて。今日ちょうどご飯食べながら打ち合わせするんだ。」
そういいながら仲村さんは旅のノートをパラパラとめくり、ワクワクする心を隠せずに白い歯を見せて笑った。
人生は五味のような経の連鎖だ。
甘味、塩味、酸味、苦味、旨味のそれぞれ全部を愉しめるような大人になりたい。
そんな大人は、だからかっこいい。
どんな味だって食べてみないとわからない。
自分だけのジャーニーだから。
旅は続く。
Guest: Daisuke Nakamura
Photo: Makoto Nakasone
Interviewer/Text: Michiko Nozaki
Producer: Keita Shimabukuro(Blendwell.inc)
Director: Reiko Ushigome(Blendwell.inc)
こちらの記事は、新しい沖縄を楽しむためのメディア「Champlu」とのコラボレーション記事です。
https://champlu-media.com/2024/03/4302/